気にしないことにしていた。
近所の狭い道に、いつも同じ場所に止まっている車がある。そのたびに少し回り道をして、特に誰かに訴えるでもなく、また同じ曲がり角を歩いてきた。一度や二度なら仕方がないと思える。ところが、それが毎日になると、仕方がないという言葉が少しずつ重くなってくるのである。
気にしたくない、と思っていた。
路上駐車など、この世のどこにでもある話だ。もっと大きな不公平も、もっと理不尽なことも、たくさんある。それに比べれば、道の隅に止まった一台の車など、怒るほどのことではない。そうやって毎朝、なるべくそちらを見ないようにして歩いてきた。
ところが、ある朝、いつもより早く家を出たとき、その車がまだあった。
夜のうちからずっとあったのだろうか。薄暗い道に、はみ出した車体だけが白く浮いていた。まるで見えなくなるのを待っている物のように、ただそこにあった。私は立ち止まって、しばらくその形を見ていた。
気にしたくなかった。
でも、その朝、初めて気がついた。気にしたくないと思うたびに、もっと大きなものを考えないようにしていたのだ、と。路上駐車が嫌なのではない。その車の向こうに続く道が、ある日からずっとおかしく見えていることが、嫌なのである。
いっそここから逃げ出したい、と思った。
口にはしなかった。頭の中だけで一瞬よぎって、すぐ打ち消した。逃げるといっても、どこへということもなく、ただこの曲がり角を曲がる前の場所まで戻りたいような、そういう気持ちだった。
でも、朝は続く。
その車は今日もある。明日もあるかもしれない。私はまた同じ道を回り道して、何も言わずに仕事へ向かう。気にしないことにしていた、では、もうない。ただ、気にしながら歩いている。それだけのことが、今朝はずいぶん遠くまで来た気がした。