ジャンル違いの3本のYouTube動画を続けて観た。練馬の住宅街を「大泉町だけ」と決めて歩く街歩き、長崎の国道で「ちゃんぽん屋を見かけたら必ず入る」と決めて走るドライブ、そして鹿児島から東京まで「品川で折り返す」という新しい便で深夜の終電を30分繰り下げる新幹線乗車記。場所もスケールも違う3本だが、並べてみると、私には同じ手つきが見えた。

3本に共通するのは、出かける前に自分で線を引いていることだった。地図そのものを楽しむというより、地図の上に細い縛りを一本重ねて、その線に沿って動いている。そして、その線が現実の地形や時刻表とぶつかるところで、ふだんは見えなかった町や路線の輪郭が浮かんでくる。

場所を楽しむ前に、まず自分で線を一本引く。

順に書いてみたい。


1. 大泉町だけを歩く ── 練馬大根ブラザーズの住所縛り

練馬の住宅街を歩く回の2回目で、今回は「大泉町」という住所だけを歩く、と決められている。練馬区には「大泉町」のほかに「東大泉」「大泉学園町」「南大泉」があって、地元の人でも紛らわしい。その紛らわしさを逆手にとって、住居表示に「大泉町」と書かれた範囲だけを徘徊する縛りなのだ。

歩いてみると、当然ながら地図上の境目と、町の手触りはずれている。大泉インターの近くから歩き出し、住宅街の真ん中にぽつんと建つ「あちこち」というお店に飛び込みで入る。豆から焼いてつくるチョコレート屋で、80%のカカオとキビ砂糖、乳製品なし。試食しながら「お酒みたいだ」と言い合っているうちに、ここが大泉町か学園町か、もうわからなくなってくる。

いちばん面白いのが、東映撮影所の手前で立ち止まる場面だった。撮影中の女優に挨拶しに行きたいのに、橋を一本渡ると住所が「東大泉」に変わってしまう。橋の手前で桜を眺め、「ここでは花見ができない」と苦笑して引き返す。地番という、ふだん意識もしない線の重みだけが急にせり上がってくる。

縛りを設けない散歩なら、たぶん橋を渡って撮影所まで行っていただろう。線を引いたからこそ、橋という細い境目が動画の山場になる。「観光の名所を見せる」回ではなく、「自分で引いた線と現実の町が、どこでぶつかるかを見せる」散歩なのだろうと思う。


2. 見かけたら必ず入る ── 国道499号のちゃんぽん縛り

長崎県の南端、野母崎から佐賀との県境まで、国道499号を北上していく。決まりごとはひとつだけで、「ちゃんぽん屋を見かけたら必ず入る」。投稿者と相棒の二人で、見つけ次第アクセルを踏まないという縛りだけを守り、ひたすら胃袋を酷使していく回だ。

1軒目から、リンガーハットの1.4倍近い360グラムの野菜が乗ったちゃんぽんを引き当ててしまう。豚骨の白濁スープに海鮮の旨味が溶け、もちもちの太麺と合わさり、「長野で食べるのとは別物だ」と感心する。2軒、3軒と続くたびに笑いが減り、無言で麺をすする時間が増えていく。

途中、無料のちゃんぽんミュージアムで、店名の由来を知る。明治期に中国の留学生むけに出された麺料理がもとで、「シャポン(飯食う挨拶)」が訛ったのが「ちゃんぽん」らしい。さらに「色づく世界の明日から」というアニメの山場に出てくる山上公園にも寄り、軍艦島の遠景まで眺める。寄り道がやたら厚い。

ただ寄り道のあいだも、視線はちゃんぽんの幟を探している。「見かけたら入る」と決めた瞬間から、長崎という土地が、ちゃんぽんが立っているかどうか、という尺度で書き直されていく。動画の終わりに残る感想は「長崎では専門店が意外と少なく、中華や食堂で出されていることが多い」というもので、これは縛りを設けて回らないかぎり気付けない発見だった。


3. 品川で折り返す ── 鹿児島から日本一遅い新幹線で

3本目は新幹線の乗車記で、繁忙期だけ設定される臨時の「新大阪21時30分発・品川行きのぞみ206号」がテーマだ。新幹線は0時から6時のあいだ走れない、という決まりがある。終点が東京駅だと、深夜帯ぎりぎりまで使い切れない。そこで終点を品川にずらし、23時59分着とすることで、関西から東京方面への終電を約30分繰り下げている。

投稿者は鹿児島中央を17時54分に出て、博多で5分接続の乗り換え、新大阪で東海道に移り、品川に0時01分着でゴールする。6時間5分の乗りっぱなしだが、車内の本人は終始落ち着いている。動画の主役は風景ではなく、時刻表と駅名と時計だ。

面白いのは、「品川を終点にする」という小さな書き換え一つで、鹿児島・長崎・高松・姫路といった広い範囲の終電が同時に繰り下がる、という連鎖だった。1分でも到着が遅れれば、0時の壁にぶつかって運休になる。再生時間の大半は延々と「23時台の時計」と「ホームの番線」が映っているのだが、不思議と退屈しない。

ここでも、線は乗り手のほうが引いている。「品川で折り返せば、終電を延ばせる」と考えた誰かがいて、その線に乗って6時間を耐える人がいる。決まりごとが時計の針1分の重みを変えていく様子を、こちらは座席のうしろから眺めているような気分になる。


まとめ

3本ともジャンルがまったく違う。住宅街の街歩き、地方の食べ歩き、新幹線の終電レポート。それなのに、観終わったあとに私のなかに残る印象はとても近かった。場所そのものを描いているというより、その場所のうえに書き手が引いた線の話に見える。

動画引かれた線線が現実とぶつかる場所
練馬大根ブラザーズ「大泉町だけ」を歩く東映橋の住所境界
ちゃんぽん全店制覇「見かけたら必ず入る」県南端から県境までの7軒
品川行きのぞみ206号「品川で折り返す」0時直前の到着、1分の遅れの怖さ

旅や散歩の動画というと、つい「どこへ行ったか」だけを見てしまう。けれど3本を並べると、行き先以上に「自分でどんな線を引いたか」のほうが、観るほうにとっての面白さを決めている気がする。

縛りなしに歩けば、おそらくふつうの散歩で終わってしまう。ちゃんぽん屋を7軒も食べ歩かないし、品川折り返しの便の到着1分が、ここまで重く感じられることもない。線を引くから、地図のほうから言葉が返ってくる。

派手な事件は何も起きていないのに、観終わってしばらく余韻が続くのは、たぶん観た側もどこかで「自分が引いている線」を思い出しているからなのではないか、という気がしている。


参考にした動画