「冷やす」「焼く」「軽く」。どれも一言で済む。料理でも、道具の手入れでも、楽器でも、人に教えるときの言い方は、たいていこのくらい短くなる。短く言えるというのは、本当はありがたいことのはずだ。覚えやすいし、すぐ手が動く。

ところが、短く言えてしまうからこそ、その一言は、たいてい素直なほうに、つまり字面どおりに受け取られる。そして字面どおりにやると、なぜか結果が逆を向く。冷やしたつもりが身を傷め、掃除のつもりが汚れを残し、軽くしたつもりが手が疲れる。

うまくいっている人は、同じ一言を、字面とは少し違う向きで握っているらしい。その「少し違う向き」のところに、たぶん本当のやり方が隠れている。

一言で済む手入れほど、その一言を素直に読んだ人から順に、逆をやらされている。

順に書いてみたい。


1. 冷やす — 釣った魚を、凍らせずに冷やす

釣りを科学の言葉で説いている方の動画から。釣れた魚が悪くなっていくのは、暴れたあとに筋肉が消耗していくことと、温かいところで細菌が増えることの、二つが正体だと説明されていた。だから良い状態で持ち帰る勘どころは、火を通す前、釣り上げたその場にある。台所ではない。

やることは三つだという。暴れさせずにその場で締める。エラの動脈を切って血を抜く。そして 0〜3 度で、むらなく冷やす。

ここで引っかかるのが、最後の「冷やす」だ。素直に読むと、氷をたくさん入れて、できるだけ冷たくすればいい、と思う。ところが凍らせると細胞が壊れて、かえって身が悪くなる、と言っていた。冷やすのに、凍らせてはいけない。真水の氷に直接触れさせるのもよくなくて、海水と氷を混ぜ、氷点より少し下の塩水をつくって、そこへむらなく浸す。「冷やす」の本当の中身は、「いちばん冷たくする」ではなく、「凍る手前の一点に、むらなく置いておく」だった。

逆を向いているのは、冷やし方だけではない。中型より大きい魚なら、背骨に沿ってワイヤーを通し、神経のほうも止めてしまうと、旨みの素になる成分が長く保たれる、と説明されていた。動かなくなったあとの魚を、もう一段おとなしくさせる、という手つきだ。さらに、持ち帰ったらすぐ食べるのが新鮮でいちばんうまい、と素直に思うところを、冷蔵庫で一日から三日ほど寝かせたほうが旨みは増す、とも言っていた。新しさを守る作業の半分が、じつは「動かさない」「すぐ食べない」という、待ちの側に振られている。

一言にすれば「冷やす」で終わる。終わるのに、素直に冷やして、すぐ食べた人ほど、いちばんいいところを取り逃がして帰ってくる。


2. 焼く — 詰まったコンロを、薬で洗わずに焼く

中華の厨房を撮り続けている方の、年に一度の動画から。中華のコンロは、ふだんは紫色の、ものすごく強い火が出る。ところが油や米粒が穴に詰まってくると、火がだんだん赤くなる。赤い火は、燃え残っている火だ。動画の中では「マシュマロを炙る程度」と言っていた。毎日同じ強火のつもりで使っているのに、火のほうは静かに弱っていて、しかもその弱りが、ちゃんと色になって表に出ている。

直し方が、おもしろい。鋳物の五徳を外して、ガスの火で、炭になって真っ赤になるまで、自分で焼き切る。薬品で洗うのでも、こすり落とすのでもない。詰まっている油を、灰になるまで燃やしてしまう。それから雪の積もった外でいったん冷やし、水で灰を流して、穴をひとつずつ、細い道具でさらう。最後にもう一度あぶって水気を飛ばすと、紫の火が戻る。

「コンロを掃除する」と一言で言うと、たいていの人は洗うほうを思い浮かべる。ところがここでの掃除は、洗うのではなく、焼くことだった。汚れを落とすために、いったん全部を火にくべる。一言の素直な向きと、本当の手つきが、ここでもきれいに逆を向いている。


3. 軽く — ピックは、軽く持たずにしっかり持つ

大人にギターを教えている方の動画から。「軽く弾く」という言い方は、ギターでよく使われる。動画では、これを「ピックを軽く持つこと」だと取り違えている人が、年を重ねた弾き手に多い、と言っていた。ふわっと持つと、ピックは滑るし、落ちるし、落とすまいとしてかえって余計な力が入る。素直に「軽く」を持ち方に当てると、いちばん疲れるやり方になってしまう。

では本当の「軽く」はどこにあるのか。ピックはふつうに、しっかり持つ。軽くするのは、持ち方ではなく、弦に当たった瞬間だという。当たった衝撃を指まで伝えてこない、撫でるような当たりを保つ。動画ではそう説明していた。練習も、まずは細い弦の開放を、ただ下へ弾くだけ。目を閉じて、手元ではなく音のほうに気を向ける。両手の合うのが先で、速さはあとからついてくる、と。

「軽く」という一言は、力を抜く話に聞こえる。聞こえるのに、本当の中身は「持つ手はしっかり、当たる瞬間だけ抜く」という、抜きどころの話だった。やはり、素直な向きとは少しずれている。


まとめ

三つを並べてみると、こうなる。

一言素直に読むと本当の手つき
冷やすいちばん冷たくする凍る手前に、むらなく置く
焼く(掃除する)洗ってこすり落とす灰になるまで焼いてしまう
軽くピックを軽く持つしっかり持ち、当たりだけ抜く

どれも、一言にした時点では間違っていない。冷やすのは確かに冷やすし、掃除は確かに掃除だし、軽くは確かに軽くする。ただ、一言にすると落ちてしまう「どこを」「どの向きに」の部分に、本当のやり方がそっくり入っていた。そして落ちた部分は、たいてい素直な向きとは逆を向いている。

短く言える、というのは教える側のありがたさだ。けれど短くした分は、どこかで誰かが、手の中で補っている。冷やす手前を知っている人、焼くことが掃除になると知っている人、抜きどころを指が覚えている人。だから一言を渡されたときは、その一言を素直に読む前に、これは逆を向いていないか、と一度だけ疑ってみる。うまくなる人とそうでない人の分かれ目は、案外その一拍のところにあるのではないか、という気がしている。


参考にした動画