毎日続ける素朴な動作には、ふしぎな性質がある。
立ったまま腕を漕ぐような動き、四股の姿勢のまま床を拭く動き、指の腹で頭皮を十分ほど揉む動き。やっている最中は、ほとんど何も起きていないように見える。半年や一年では、自分のしていることに意味があるのか、自分でもよく分からない。
ところがある時、長く抜けなかった首の張りが軽くなっていたり、髪型が決まるようになっていたり、家の引き出しが知らないうちにスカスカだったりする。劇的な瞬間は来ていない。ただ、ひとつの動きを、ひとつの基準を、ただ守って暮らしていただけだ。
強い負荷を一度入れるよりも、弱い負荷を毎日積む方が、たぶん身体の深いところまで届く。
順に書いてみたい。
なお、この記事には身体や健康の話が出てくる。人によって反応の出方はずいぶん違うし、不調が長く続く場合は素人考えで対処せず、医師に相談する方が早い、ということだけ最初に書いておきたい。
1. 船漕ぎと雑巾がけ — ある武術系の指導者の方
ある武術系の指導者の方が、視聴者からの便りを紹介していた。便りの主は、十年以上、首の痛みに悩んでいたという。整形外科に通い、リハビリも続けたが、なかなか抜けなかった。それが、この指導者の方が以前すすめていた「船漕ぎ」という動きを毎日繰り返して一年経った頃、痛みがほぼ消えてしまった。視線の動きまで楽になった気がする、と書かれていた。
船漕ぎとは、立ったまま腕と腰を漕ぐように前後に動かすだけの素朴な動作だ。道具もいらず、畳一畳ほどの場所があればよい。
別の方が「半年続けたので次に進みたい」と質問する。指導者の方の答えも、これまた素朴で、「雑巾がけ」だった。四股と同じ姿勢で股関節を割り、雑巾を床に置いて、手を目一杯前に伸ばす。届くか届かないかの距離まで、五十回ほど往復する。
重りをつけて負荷を増やしてもよいか、という重ねての問いには、はっきり「つけない方がいい」と返していた。重りを足すと姿勢が崩れる。崩れた姿勢で動いても、もう本来の効きどころからは外れてしまっている。効かせたい場所ではなく、姿勢を守ることのほうを優先する。
派手な道具も、強い負荷も入れない。ただ姿勢を保って、同じ動きを毎日繰り返す。それを続けた人にだけ、一年後の身体の軽さが訪れている。
2. 一日十分の頭皮マッサージ — ある検証動画
別の動画は、もう少し検証寄りだった。三十四歳の方が、抜け毛が気になってきたので、頭皮マッサージを一日十分、三ヶ月続けてみるという記録。条件をできるだけ揃えるために、食事も睡眠もシャンプーの銘柄も変えない。揉む手だけを足す。
一週目に変わったのは、頭皮の爽快感と、顔のむくみが少し取れた感触だった。 一ヶ月目には、むしろ抜け毛が一度増える。これは毛が生え変わる周期が動き出した合図らしい、と紹介されていた。 二ヶ月目で、髪のコシが戻ってきて、同僚から「髪型決まるようになったね」と言われる。 三ヶ月目には、毛量そのものが増え、写真で比較してもはっきり違いが分かる程度に変わっていた、と書かれている。
副次的に、肩こりが楽になり、寝つきがよくなり、日中の集中も保ちやすくなった、とも続く。頭皮の血流が戻ると、首から肩、脳までの流れも改善するらしい、という説明だった。
もっとも、すでにかなり進んだ薄毛の方には、同じことをしても同じ結果は出にくいと、動画自身でも明言されていた。本格的な悩みがある場合は、揉む前に医師の判断を仰いだ方がよいだろうと思う。
それでも、この記録が面白いのは、効いたか効かなかったかではなく、「一日十分、三ヶ月」という時間の積み方そのものだ。一日十分は、カップ麺を待つ時間と大して変わらない。その短さの行動を、九十日続けると、髪型の話まで届く。
3. 月に一回の基準で暮らす — 持ち物を絞って暮らす方
三本目は、暮らし方の話。持ち物を徹底的に少なくして暮らしている、ある方の解説だった。
その部屋には、家具がほとんど置かれていない。引き出しを開けてもスカスカで、クローゼットの中も同じだ。
そこに至る方法はひとつだけ、と言い切っていた。「片付けるのではなく、ものを減らす」。収納の工夫を磨くより前に、持っているものの数そのものを削る。
そして数を削るときの基準も、たったひとつ。「一か月に一回以上使うか」。一か月に一回以上使うものだけを家に置く。二、三か月に一回しか触らないなら、その時点で手放す。
この基準で生きていると、洋服は十着ほど、パジャマは二組、下着は一組、で生活が回るという。来客用の食器も二、三種類でなんとかなる、と言い切る。旅行に出るときも下着は三日分だけ持ち、現地で洗う。
季節のものはどうするのか。クリスマスツリーやひな祭りの飾り、扇風機。それも「借りればいい、共同で使えばいい」で片付ける。
聞きながら、これは収納の話ではなく、判断の話だと思った。
ものを買うときも、買ったあとも、ずっと同じひとつの問いが回り続けている。「一か月に一回、本当に使うか」。問いがひとつしかないから、迷う時間が短い。迷う時間が短いから、暮らしが軽い。
まとめ
三つを並べてみると、共通しているのは「ルールを増やさなかった」ことだと思う。
| 題材 | 続けたこと | 守ったひとつの基準 |
|---|---|---|
| 武術系の身体習慣 | 船漕ぎ・雑巾がけを毎日 | 姿勢を崩さない |
| 頭皮マッサージ | 一日十分の指の動きを三ヶ月 | 他の条件を変えない |
| 持ち物の整理 | 不要になったら手放す | 一か月に一回使うか |
新しい技を増やしたわけでも、複数のやり方を組み合わせたわけでもない。ひとつの動き、ひとつの問いを、長い時間ただ守り続けただけ。基準が一個しかないから、迷わず続けられる。続くから、いつか効いてくる。
毎日たくさんのことを始めれば早く前進すると思いがちだが、実際に身体や暮らしを少しだけ変えるのは、たぶんこちらの方なのだろう。
ひとつの動きを、ただ続ける。 それだけで、十年付き合ってきた首の張りが抜け、髪型が決まるようになり、家の引き出しがスカスカになる。 派手な仕掛けは、案外要らないのではないか、という気がしている。
参考にした動画
- ある武術系の指導者による解説:船漕ぎで十年来の首痛が消えた/次は雑巾がけのススメ — https://www.youtube.com/watch?v=9dE7iguii2M
- 検証動画:頭皮マッサージ毎日十分を三ヶ月続けた結果 — https://www.youtube.com/watch?v=izYRie3LbuA
- 持ち物を絞って暮らす方の解説:「一か月に一回以上使うもの以外は持たない」 — https://www.youtube.com/watch?v=hIcfVEReydU