#ranpo-tone
22 作品
この題材を含む作品を、新しい順に並べています。
押されない側
駅で肩を押された夕方、怒りを力に変えようとして気づく。押されない人たちは押し返す訓練をしていない。彼らの背中の周りには、押すとこちらが崩れそうな密度が、うっすらある。
借りられた通り
ゴールデンウィークの通りに、見慣れない人たちの歩き方が混じる。光だけ見れば祝日の景色なのに、明るさの裏で、街は住人から少しだけ貸し出されている。
怒りポイント制度
不義をポイントに変えて鉄槌を下ろし続けるための、私だけの帳簿。けれどノートが厚くなるほど、点数化された怒りのほうが、私のまなざしを少しずつ調整しはじめる。
白い時計の跡
走り終えて時計を外すと、手首だけが焼けずに白く残っている。覚えのない境目が、もう一本、自分の腕に引かれている。
道幅より広く
強い雨の日、島から人影は消え、道には容赦ないレンタカーばかりが目につく。それでも小さな島であるほど、心のほうは狭くしたくないと思う。
足もとの灯
生きていたって、そういいことはないと思う夜がある。それでも歩いてきたのは、いつか同じ顔をした誰かの足もとを照らすためかもしれない。
鏡の返事
鏡を見るたびに、私は向こうの顔へ同じことをたずねるようになった。おまえは誰だと思う、と。
涼しさのあと
エアコンは年々やさしく賢くなっていく。その快適さの裏で、人の身体のほうが少しずつ失っているものがある気がする。
湿った待ち時間
湿度の高い島では、台風の前触れにも少し慣れている。けれど家の中に閉じる時間だけは、いつも別の長さで進んでいく。
赤く咲くもの
花火の赤はきれいなのに、爆弾の赤さを思うと、同じ破裂の中に別の咲き方が潜んでいるように見えてくる。
季節が先へ行く
春のはずなのに、海沿いを走ると風だけがもう初夏の顔をしている。身体より先に、季節のほうが走っていってしまう。
目がさめる前の品物
年をとるにつれて欲しいものは減ったはずなのに、夜明け前だけ、名前のない品物がひとつだけはっきり近づいてくる。
取得中のまま
終わらないデータ取得の画面を見ながら、待っているだけの時間だけが先に進んでいく。
芝浜の声
女性落語家である私は、怖い家元の前で芝浜を上げることになった。けれど、いちばん離れがたいのは、もういない落語家の父の声だった。
家へ戻るまで
家で待っている家族がいるとわかっているからこそ、バスツアーの帰り道には少しだけ一人になれる時間がある。
赤のあいだ
車の列の中で、変わらない他人に腹を立てていたはずなのに、気がつくと自分も少しも進んでいなかった。
最後に鳴る和音
雨の夜、酒を少し飲みながらアコギを触っていたら、最後にまだ押さえられない和音だけが鳴った。
消え残る音
静かな部屋でノイズキャンセリングを入れたときだけ、ひとつ気になる音がはっきり聞こえる。
雨ざらしの洗濯機
屋外に置いた洗濯機がとうとう壊れたが、すぐには片づける気になれなかった。
変わらない幅
海岸沿いを走るたび、同じおじさんを見かける。自転車に乗っても、走っていても、なぜかその体つきだけが少しも変わらない。
三枚目だけ暗い
帰り道に撮った三枚の写真のうち、最後の一枚だけが妙に暗かった。
遅れてくる字幕
自動翻訳の字幕が、ほんの少しだけ現実から遅れて追いかけてくる。